2020年8月13日木曜日

悪の毒書日記 事典にない大阪弁 四代目旭堂南陵(著)

 2020年 8月 13日

久しぶりにブログである。
一ヶ月以上、何も読まなかったのではなく、ブログになりそうな本を読まなかっただけであり、本や文献や活字は毎日のように読んでおり、ただ悩んでいたのである。

先月7月半ば、生まれて初めて講談を観た。少し長く生き過ぎた歳なのかライブハウスに通う事はしばらく無く、最近は落語会へ行く機会が圧倒的に多い。しかし、先月・・・とある理由から初めて講談を観た、講談師は「旭堂小南稜」さん(ご出身は隣の市町村の八尾市らしい)、演目は「壺坂霊験紀」であった。実際の講談なんてテレビでもYoutubeでもまともに観たことが無いものを目の前で見ると、編集された動画の画面ではないので、講談師の放出するバイブレーションをガンガン感じて楽しめる、これは講談に限らず、落語や音楽、演劇なども同じだが。演目の「壺坂霊験紀」ってデビッド・リンチの「ワイルド・アット・ハート」みたいやんけ!!と、講談とD・リンチを繋げるのは失礼か否?と、演目よりも「これはもの凄いものを体験した!」という、凄まじい気持ちで会場を後に後にした。

自宅に戻り、講談師の旭堂小南稜さんをgoogleで検索すると、四代目旭堂南稜氏のお弟子さんにあたられるとのこと。次に旭堂南稜さんをアマゾンで検索すると「事典にない大阪弁 増補改訂版」という書籍がヒットした。



これはひょっとして、かの名作「大阪呑気大事典」(宝島社)に匹敵するものなのか?と、大阪呑気大事典は事典でなく、単にコラム等を集めた作品で80年代雑誌宝島に連載されていたものを一冊の本にしたものだが、石田長生氏、桂べかこ氏(現:南光氏)、中島らも氏など有名な方が書いておられる。イラストもひさうちみちお氏、いしいひさいち氏など・・・まさに大阪呑気である。
という訳でこれは「大阪呑気大事典」にならぶ名作では?と思い、早速「事典にない大阪弁 増補改訂版」をアマゾンでなく、梅田の書店で購入するに至った。


本書は、大阪呑気大事典とは異なり、四代目旭堂南陵氏が執筆した文献を纏めたり、執筆した内容である。前半半分があいうえお順に事典にない大阪弁が並べられ解説がさえており。のこり半分がコトバに纏わるエッセイ「大阪弁笑解」と昭和時代の街の写真などである。どうみても十分に事典といえる。
小生は「大阪生まれの大阪育ち」、今は大阪に隣接する兵庫県の市町村に住んでいるが、選挙の時と偶然テレビでNHKを観た時くらいしか兵庫県県民と意識することは無い。普段自分が口にするコトバが関西弁なのか、そんな事はあまり考えたことは無い。
 
例えば本書によると、「足をつる」ことを「こむら返り」というが「こぶら返り」という人がいる。「こぶら返り」とはおかしいのか、聴き違いなのかと思ったが、厳密には「こぶら返り」といのは大阪訛りらしく、珍説でコブラに噛まれたくらいに痛いからというまさに珍説、コブラに噛まれたことあるんかというところ。他に「ねこ」猫餅のこと、細長くした餅・・・スーパーマーケットでは見ることは無いが、天神橋筋商店街を歩いていると店先に売ってるのを見かける。古書店の「天牛書店」は「てんぎゅう・・・」でなく「くもじ・・・」が正式というか遥か昔はそう読んだとか。さらに「お●こまんじゅう」は堺方面では昭和40年代までは出産などの慶事ごとには注文されていたそうだ・・・流石に事典には載っていない。
どこかほんの少し懐かしく、そして知らないことだらけの本当のおもろい大阪である。
「関東煮」と「おでん」の違いがこれまた複雑、本当のおでんは薄口醤油にだしのきいた煮込み田楽など、食に関してもかなりの話が満載されていて、飽きることなく気軽に何処のページからでも拾い読みができ、何度でも読んでみたい内容であり、大阪呑気大事典に勝とも劣らぬ、100年後に本当に学術的な価値がでるのはまさしく「事典にない大阪弁 増補改訂版」と「大阪呑気大事典 増補改訂版」であるのは確実であると言える。

ひとくくりに「大阪弁」といえども、「船場」「島之内」で使うコトバが若干ことなることも興味深い。以前ブログにも同じようなことを書いたが大阪の笑いですら「うめだ」「なんば」「天王寺界隈」と場所により笑いのポイントが若干異なる。コトバも同様に「船場」「島之内」と距離に関係なくその地域の文化でコトバが少し異なるのである。コトバというのは常に変化していくのであるが、これからいったい大阪弁どうなるのだろうか?と思いながら、そんな事を考えてもどうにもならないのである、所詮コトバである。

数カ月前に勤務先の20歳代のベトナム人が一時帰国して買ってきてくれたお土産について、ベトナム人に尋ねたところ「あれ、おかんに持たされたんです」とコトバが返ってきた。
ベトナム人よ「おかん」っていうな!

大阪呑気大事典より抜粋


追伸
本書の著者である四代目旭堂南稜氏が7月30日に他界されました。これから講談といものも観たいと思っていた矢先、ちょうどこの本を読んでいた時期でしたので、驚きというか表現の出来ない感じです。

ご冥福をお祈りさせて頂きます。