2019年4月28日日曜日

悪の読書日記  旅のモザイク 澁澤龍彦(著)

2019年 4月 27日

この本を知ったのは、偶然見つけた東京の古本屋ノストッブックスのサイトに紹介されていたからである。『そうだ、旅に出よう。音楽家・芸術家・小説家たちが綴った旅行エッセイをあつめました』とい記事である。色々な旅行記を紹介しているのだが、その一冊に澁澤の「旅のモザイク」を見つけた、澁澤龍彦といえば、ヨーロッパというイメージがあり、既に『ヨーロッパの乳房』というヨーロッパ旅行記なども出版しており、小生に至っては『澁澤龍彦のイタリア紀行』という澁澤夫妻、そして「旅のモザイク」にも登場する小川氏の共著が愛読書になっている、このイタリア旅行記のベースが「旅のモザイク」「ヨーロッパの乳房」なのでかなり引用されている。






「旅のモザイク」は1976年に出版された書籍である、イタリア、中東、沖縄、阿蘇、青森、北海道を周った旅行記である。その頃とは社会情勢も遥かに変化しているので、書かれている海外の中東諸国の様子は全く現在とは異なるのだろうと思うが、澁澤が回った場所がどんな場所だったのかは、イタリアについては「澁澤龍彦のイタリア紀行」をパラパラ見ながら想像すればいいのだが、中東の遺跡などは想像が困難な為、GOOGLEで画像を検索すると、殆ど検索結果でヒットするのでどういった景色なのかが解り非常に効果的で有効的なツールである。1976年には無かった文明の力で、澁澤はインターネットが庶民の手元に来る前にこの世を去ってしまったのは実に残念である。


実はこの本を買うまで、ヨーロッパの旅行記かと思っていたが、実は半分が日本国内の旅行記である。澁澤の国内の旅行記には『古都巡礼』(小生は未読)という本もあるのであるが、まさかこの1976年に発売された本書の半分が国内旅行の旅行記だとは思わなかった。前述の古本屋のサイトには説明されているのだが、殆ど適当にしか読んでいなかったようである。
しかし、巡っているところが実に興味深い。行き先は沖縄、阿蘇、青森、北海道・・・この理由はここでは書かず本書を読んで頂ければ納得できるのであるが、行き先は自然なのである、以外だ。サンゴ礁、火山、風、流氷なのである、寺院や文化建造物でないという。澁澤らしくないと思ってしまう。
但し、澁澤龍彦の旅行記である・・・行く先々での話が実に面白い、阿蘇の噴火口でサドの小説を思い出しては、博多に戻りレズのストリップ。北海道ではちらし鮨などとあまり有名な澁澤の本ではないかもしれないが、裏・澁澤っていう感じが実に良く海外国内のバランスがちょうどいいのかもしれない。(2002年にやっと文庫化されたようである)

悲しい事に、沖縄の石垣島では、激しい観光化(自然破壊)に嘆き、阿蘇山では日本はもっと地震に注意すべきだると書き、北海道では網走駅は風情があると感心された1970年代・・・現在の2019年の日本を考えれば、沖縄の海は政府の道具にされ、既に日本は幾度の地震の経験を経て、やれオリンピックだと言っては土建屋の為に歴史のある建造物が破壊されている。
今考えれば、警告みたいな感じもするが、古き良き日本がほんの少し感じられたりする。
やはりこの日本には文化というものが育つことはないのだろうと理解するしかできず、クールジャパンなどという馬鹿げたことを真面目に考えるなら、本当にクールジャパンに貢献している電気グルーブに文化勲章である事に気づかれず。
現在の日本文化、例えばお家芸のゲームソフト関係などは少なからず澁澤龍彦の影響下にあると思うのだが、澁澤の評価はかなり過小評価と言えるだろう。本当に本が好きな人々の間でしか好評化されていない気がする。
もし、澁澤の本を読んだことがあるのであれば、この裏・澁澤といえる「旅のモザイク」は興味深く読めるのでは無いだろうか。この本が発売された時代から前述の通り世界も日本も大きく変化している、既に過去の旅行記に過ぎないといえばそうなのであるが、その向こうにある世界や価値観、澁澤龍彦というフィルターを通して見える世界は不思議な世界である。

この「旅のモザイク」というタイトルは澁澤夫人が付けたそうである。


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